ドナリィンの恋
 スタジオから戻ってきたドナが、佑麻のテーブルに腰掛け言った。今までラジオを通して聞いていた声の主が、実際目の前に現れるとなんだか不思議な感じがした。
「実は…。」
 佑麻が頭の後ろで腕を組んだ。言いにくいことがある時の彼の癖だ。ドナは今ではそんなひとつひとつの仕草で、彼の心のうちの一端がわかるようになっている。彼女は少し緊張した。しばらくして佑麻は言葉を口にした。
「そろそろ日本に帰ることにするよ、ドナ。」
 スターバックスの紙コップをいじるドナの手が止まった。いよいよその時が来たのだ。ドナが一番恐れていた言葉だ。彼女は努めて平静を装いながら、ひとくちラ・テを飲んだ。
「『世界の都市から日本を考える』という課題はできたの?」
「あっ、いや…、」佑麻は、ドナついた嘘を今まで忘れていた。
「まあ、なんとか…。」
「そう…。課題をやっていた様子は見受けられなかったけどね。」
 ドナの皮肉をかわしながら佑麻は続ける。
「それに、ドナのおかげでようやく将来自分が何をやりたいのか、見つけることができたんだ。」
「そう、何になるの?」
「医師になる。それも病気を治すだけでなく、病気にさせない医師を目指す。今まで、医師の仕事は死にかけた人を治すことだと考えていた。だから、人の生死に直接かかわる勇気が出なかったんだよ。でも、ここでドナといろいろなことを経験させてもらって、人の病気を未然に防ぐ仕事もあるんだとわかったんだ。だから、日本に帰って医師になるための勉強をすることにした。」
 ドナは、コップを置き佑麻の手を取り彼と向き直った。
「素敵じゃない!」
「これでようやく自分の未来を想像できるようになった。だから…。」
「だから?」
「自分の未来を過ごす相手はドナ以外に考えられない。」
 この男もまた、私と生きることを望んでいる。ドナはその言葉がこの男の口から出ることを、どれほど待ち望んでいただろうか。ドナの心臓は高鳴り、天にものぼる気分で足が地につかなかった。
「何年か後に医師になったら、必ずドナを呼び寄せるから、日本で一緒に暮らそう。それまで待っていてもらえないかい?」
 しかし、次に佑麻の口からでた言葉は、ドナを宙に浮かせていた風船を破裂させた。ドナは無残にも地面に叩きつけられた。
「あなたの未来で、あなたと過ごす私は、日本で暮らしているの?」
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