【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
ここは、井戸だ。
おそらく、いねが身を投げたという、井戸だったのだろう。
どん、と強く横向きに体がぶつかった。
私の体の深いところでボキ、と音がして、思わず呼吸の止まるような痛みが私を襲った。
思わずうめき声を上げたが、その声が胸の中で痛みになってさらに声を上げてしまった。
折れた……これ、たぶん骨折だ……。
骨折の経験はない私だけれど、その痛みの鋭さでさすがにそう理解した。
どうしよう……ヤバい……。
自分がかなり危険な状況に陥ってしまったことは分かるのだが、しかしではどうすればいいのか、となると何も思いつかない。それどころか、骨折のせいか体を起こすこともできない。井戸が涸れ井戸であったのは不幸中の幸いだったけれど、このままではどの道死を待つより他はない。
巫女としての役割を見つけたと喜んだのもつかの間、私は何の役にも立たないまま、死んでしまうことになりそうだ。
拍動にあわせて激しく痛む胸を庇いながら私は必死で意識を保とうとするが、だんだん視界が歪んできた。
こりゃ死ぬな……。
私はそのまま、踏ん張りきれずに意識を失った。
このまま死んだら、……ああ、そうだ。私が死んだら、景久さんはあの家から開放される。
それならまあ、いいか。朱雀といねさんのもつれをほどくことはできなかったけれど……。景久さんだけでも。
彰久は……どうなるのかなぁ。
また、次の当主として朱雀の巫女さまを妻にしなきゃいけないんだろうか。
どのくらい時間がたったのだろうか。うっすらと目を開けると、私は汗まみれだった。ここにくるとき少し風邪気味だったものが、ここで気を失っている間に熱が上がったらしい。
喉、渇いたな……。
ゆっくりと首を動かして自分が落ちてきた穴を見上げると、もう夜中になっているようだった。
ずきずきと痛む胸を庇って浅く息を繰り返しながら、少し腕を動かす。
せめて携帯を持っていれば助けを呼ぶこともできたのかもしれないが、残念なことに私の携帯はお社の前においたバッグの中だ。
どこまでも運のない女だ……。
からからに乾いた喉からはもうかすれた声しか出ない。
私が死んだら、お母さん、泣くかな……。景久さんは、泣かないだろうな。怒る?……どうだろう。反応が想像できないわ。さすがに喜ばれたらイヤかも。
とりとめのないことを考えていると、パラパラと私の顔の上に土が降ってきた。
「や、だ……口に、はいっちゃったじゃない……」
最後に口に入ったものが土とは。せめて最後なのだから北条家で食べた100グラム一万円のシャトーブリアンを食べたい。
あの肉はおいしかった。私の短い人生の中じゃあの肉が最高に美味かった。
痛みに耐えながらそんな卑しいことを考えていると、遠くから声が聞こえた。
「……さん!……美穂さん!」
それは、景久さんの声だった。