【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
「景久さ、……」

 そう言いかけたところでまた土が顔にふってきて、今度はそれが喉に引っかかった。思わず咳き込むと、今度は折れた骨が軋んで、私はその痛みに悲鳴をあげた。


「美穂さん、今そちらに行きます!」

 今度ははっきりとそう聞こえた。
 次の瞬間、私の落ちてきた穴を景久さんが覗き込んだ。


「一人で行動するなと言いましたよね」

 穴の中に降りてきた景久さんは私を懐中電灯で照らし出した。


「折れたのですか」
「……なんか、すみません……」

 彼はため息をついて上を見上げた。


「もうすぐ消防団の人たちがここに来てくれます。それまで少し待っていてください」

 結局また景久さんに面倒をかけてしまった。情けない思いを噛み締めながらもう一度彼に謝ろうとした。が、その時、急に体がだるくなり、声を発することができなくなった。
 そして、胸の中に強い怒りがわいてくるのを感じた。何もかも破壊してしまいたい。そんな強い衝動が嵐のように私の体の中を駆け巡る。

「な……ぜ」

 声を発することができないのではない。私の口は言葉を発した。私の思いもよらない言葉を。

「な、ぜ。
 おらを巫女さまにしてくんねじゃった」

 私の声というにはあまりにかすれて、地底から響くような声に景久さんは大きく目を見開いて私を見た。

「な、ぜ。
 万寿丸を海に、流いてしもうた……。
 おらにゃ、万寿しかねじゃったに」

 私は、自分の中に燃えるような恨みの気持ちが広がってゆくのを、ただなすすべもなく感じていることしかできなかった。
 私は自分の意思とは関係なくゆっくりと体を起こし、景久さんの肩に両腕をかけた。胸の骨がたまらなく痛んだけれど、私はそれを自分の意思でやめることができなかった。

「下女のおらを騙い(だまし)て……、弄ぶのはおもっしぇ(面白い)じゃったか……。
 お恨み申しますぞ、雅久さま……」

 景久さんの隣にすう、と真っ白な狩衣の朱雀様が現れた。
 彼は悲しげな面持ちで私に手を伸ばし、そっと髪を撫でる。

「雅久様……こっだ(こんな)だたねぇ(みにくい)体になったおらが、もつけね(かわいそう)と思わんだか……万寿がいとけね(かわいい)と思わんだか……惨(む)っげぇ……惨(む)っげぇお人じゃ、雅久さま……」

 景久さんはしばらく、私に憑いたいねの恨み言を黙って聞いていた。
 やがてそっと私の体を抱きとめ、優しく背中を撫でた。

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