【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
私の気持ちがわかるって……それならどうして婚約前にこういうことを話しておいてくれなかったのよ、こっちは 北条グループの沿革とか今後のグループ全体の展望は耳がおかしくなるほど聞かされたけれど、巫女さまになれば朱雀様が見えるようになるなんてひとっことも聞いてないわよ?
私は景久さんをにらんだ。
彼はその私の視線を、驚くことなく素直に受けた。
あ、この人、私が怒ること……きっと予想していたんだ。
「どうしてはじめに教えてくれなかったんですか」
言い訳をして欲しい気持ち半分、真実を知りたい気持ち半分で私はその言葉を口にした。
景久さんはわざと朱雀様のことを黙っていたのではないだろうか、私はそんな気がしていた。
朱雀様の話をすれば、ただでさえ婚儀に乗り気でない私がさらに消極的になってしまうのではないかと危惧して、景久さんはあえて、黙っていたのではないか。
もし先に朱雀様のことを聞かされていたら……たぶん、彼の予想通り、私は恐れをなして逃げていただろう。
「黙っていた理由はあなたの推測どおりですよ。それに、あなたはたぶん僕が先に朱雀様について話をしておいたとしてもきっと信じないでしょう。僕も、変人扱いされるのはごめんですしね」
「騙したんですか」
「いいえ、聞かれなかったので黙っていただけです。聞かれたら答えていましたが、でも何の予備知識も無い状態で突然あなたがそんなことを僕に尋ねるということはありえないでしょうから、やはり騙していた……ことになるのでしょうか」
「……」
ひどい。
あの婚儀の夜、人の気配がと騒ぐ私を抱き寄せ、「あなたは僕が守ります」と言ったのは景久さんだ。私はあの時、生まれて初めて男の人に守られる心強さに、喜びに震えた。
なのに蓋を開けてみれば、景久さんはその人の気配の正体を知っていて、あえて私に黙っていたのだ。
あの婚儀の夜、少しでもこの人に惚れかけた自分のおつむの軽さを軽蔑するわ。
景久さんは困ったように目を伏せ、そしてため息と共に言った。
「もし僕が朱雀様のことを正直に話していたら、あなたは気味悪がって今、この屋敷には居なかったでしょうね。
だから、僕はあなたを逃がさないために朱雀様のことは黙っているしかありませんでした。
あなたにはどうしても逃げられたくなかったから」
「そうまでして当主になりたいんですか」
「いいえ、もともとは北条家にも北条グループにも興味なんてありませんでした。
僕は次男として生まれ、この家を継ぐ予定ではありませんでしたし、僕自身もそのつもりで育ってきました。
それに……、僕は15歳のころからロンドンで過ごしていますので、もうあちらのほうが暮らしやすいんですよ。 日本の夏は……どうも息苦しい気がしていけません」
私が婚儀の前に、景久さんに逃げようと持ちかけたとき、彼は「北条家に残していけないものがあるから行けない」と言った。そのことと、彼がこの家の当主におさまることには何か関係があるのだろうか。