『私』だけを見て欲しい
地域の人なら誰でも自由に入っていいし、本も借りれる。

学校の正面玄関を入るとすぐに、解放された図書スペースが見えた。
雨だから利用者も少ない。
ここにいれば、授業の終わりも分かる。

夕飯のメニューを調べておこうと、雑誌のコーナーへ向かった。
料理やお弁当、健康情報誌に加えて、園芸雑誌も置いてある。

「あ、これ…よく読んでた本…」

寄せ植えを趣味にしてた頃、毎月のように買ってた園芸雑誌。
専業主婦としては唯一のゼイタク。
生まれて間もない泰を片手に本のページを捲るのは、あの頃の私の楽しみの一つだった。

懐かしくなって読みだした。
色とりどりの花の中に、『美粧』さんの鉢カバーを使った寄せ植えが載ってた。

「ステキ…この鉢、やっぱり花がすごく映える…」

この間入荷したばかりの新シリーズ。
植えられてるのは、ビオラとアイビー。

ミニガーデンの参考にするつもりで眺めた。

仕事を辞める前に、一度だけ作っておきたいディスプレイ。
自分の最後の作品として相応しい、最高ものにしたい…。


…学校にいるのも忘れて、いつの間にか仕事のことばかり考えてた。
泰のことが心配になって来たハズなのに、気づくと別のことばかり思ってる。

どうせ辞めるのに、あと僅かしか働くつもりもないのに…


こもった音でベルが鳴り響いた。
どうやら授業が済んだらしい。
教室棟の方から子供達の声がしてくる。
…ふと我に返って、目線をそっちへ向けた。
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