『私』だけを見て欲しい
「たい!!」

とうとう大きな声が出た。
チッ!…と小さな舌打ち。

「分かったよ。やめりゃいいんだろ!」

捨てゼリフ吐きながらリセット。
これと同じこと、昨日もやった。

「ゲーム、こっちで預かるから」

もうすぐ中間テストでしょ…と手を出す。

「メンドくせーな…」

イヤイヤ手に乗せる。
可愛くないったらありゃしない。


泰の部屋を出て、自分の部屋へ行く。
通勤用の服からラクな私服に着替える。
ホッとする瞬間。
肩の力が抜ける。


「…ご飯あったまったよ」

母の声がする。

「はーい」

若い娘みたいな返事。


……母は、私が泰を連れて家に帰って来た時から何も言わない。
別れることを最初から予想してたみたいに、

「あんたも苦労したね…」

…と、労いの言葉をかけてくれた。

苦労した感覚なんて、まるでなかった。
好きになった人と勝手に同棲始めて、実家にも帰らなかったような娘。
そんな私を母は責めもせず、イヤミも言わず、ただその一言だけで受け止めた。


「今日の様子はね…」

教えてくれる泰の生活。
少しずつ反抗的になってくる孫のことを、最近、持て余してるみたいだった。

「…ご飯食べるのも遅いし、ゲームしながらだし、ロクでもないよ⁉︎ 」

誰に似たんだろうね…と言いたげ。

「そう…よく言い聞かせとく」

ご飯食べながら聞かされる愚痴は、食べる気すら失わせる。
次から次に教えられる悪態に、いい加減イヤになりそうだった。
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