『私』だけを見て欲しい
未来へ…
会社を辞めた翌週の日曜日、母と泰と3人で彼のマンションへ遊びに行った。


「デカいネコぉ…!」

ギャハハ…と泰が笑った。
下品な笑い声に恥ずかしくなる。
拓人さんは弱ったように苦笑いして、理由を話しだした。

「飼い始めは痩せてたんだよ!でも、仕事がら、どうしても運動不足になってさ、だからいつの間にかこんな太って…」

『美粧』の商品モチーフと同じ赤い首輪をしてる。
クロネコちゃんの名前は『ポン』と言うそうだ。

「付き合いで麻雀やった帰りに拾ったから…」

ネーミングが面白いと母は笑った。
泰はポンちゃんを抱き上げて、「重てぇ…!」と声を上げた。

ポンちゃんの得意技は、彼の背中で寝ること。
酔い潰れて寝てる所をいつも起こされるらしい。

「だから、会社で眠たそうだったんですね…」
「ダッセー!」
「これ…泰良っ!!」

家族の中に笑い声が弾ける。

この人のことを好きになって良かったと思う。
幸せそうな顔をする瞬間が、皆の中に訪れたから。


「…結婚を前提に、結衣さんとお付き合いさせて下さい…」

きちんと頭を下げてもらえた。
母の顔がほころぶ。初めて見るような涙も流した。

「よろしく…お願いします…」

深々と頭を下げた母の足元に、キラリ…と涙の粒が光った。


「泰もよろしく…!」

トモダチの顔をしたまま、彼が手を差し出す。
緊張気味にしてる私を見つめ、泰はペチン…!と手のひらを叩いた。

「ゲームに勝てたらな…!」

ツッパった態度のまま、微笑み返す。
心の中ではきちんと、彼の存在を認めてるみたいだ。
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