『私』だけを見て欲しい
可愛くない部下の顔を眺める。
ここで自分の気持ちがバレたりしたら、私は恥ずかしくて仕事にもならない。

「…ならいいけど、何かあった時は遠慮なく話せよ。これでも一応、お前の師匠なんだから」

愛弟子とまで言ってくれた人の言葉に頭を下げる。
でも、きっと何があっても話せない。

「ありがとうございます。お気持ちだけ頂きます」

つまらなそうな顔。
山崎マネージャーはムッとした表情のまま、上の階に上がって行った。

大きなため息が出る。
マネージャーの気持ちも『れんや』君の気持ちもありがたいけど重い。
何より自分の気持ちは重すぎて、持て余す以外に使いようがない。
30を越えて今更…とも思う。子供だっているのに…。

(でも、恋くらいしてもいいじゃん…まだ若いんだから…)

もう一人の自分が言う。
恋と言っても片思い。
それもまだ、本格的なものじゃない。
若さと天然さに対する憧れ。
『れんや』君のように自由奔放に生きれたらいいな…といった感じ。

(ムリムリ。私にはハードルが高すぎる…)

臆病なくらい自信がない。
元夫に裏切られてからこっち、私は女子としての自分に、魅力が無いことに気づいた。

元夫の浮気相手は同い年だった。
会社の同僚でお金もあったその子は、私なんかよりもずっとオシャレで、キレイで可愛らしかった。
こっちは惨めな専業主婦。
仕事に行こうにも、幼い泰を誰かに預けて…とまではいかなかった。
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