『私』だけを見て欲しい
『魔が刺したんだ…』

浮気を認めた元夫の言葉に逆上した。
許せなくて、怒鳴り散らして離婚した。
今から思えば子供みたいなこと。
でも、あの頃はそれなりに彼のことを真剣に愛してた。

子供を産んだばかりの女性が一番美しい…って、テレビか何かで聞いたことがある。
でも、私はきっとそうじゃなかった。
だから平気で浮気された。

…そんな風にしか考えられなかった。

(惨め…そんな事、今思い出さなくてもいいって…)

『れんや』君の言葉もマネージャーの言葉も全部、皮肉に聞こえてしまう。
こんな私に真剣に恋してくれるような人、いる訳がないと思う。
だから、今抱いてる気持ちも、きっと泡のように消える。
…それでいい。仕方ない…。

何も考えずに体を動かしてればいい。
この会社にいて一番助かったのはそこ。
特にディスプレイを作ってる時は、何も考えず、フロアに来るお客様の目線だけ気にすれば良かった。
後は商品の売れ行きが、それで伸びれば言うことなし。


「佐久田さーん、おはようございまーす!」

紗世ちゃんが来た。
今日こそはきちんと仕事してもらわないと。

「おはよう!奥にいまーす!」

声を聞きつけて彼女が来る。
茶髪に巻き髪。きっちりメイク。
この子もオシャレには敏感だ。

「棚の配置替え手伝ってくれる?『美粧』さんの商品沢山売って、紗世ちゃんが言ってたミニガーデン風のディスプレイ作りたいから」
< 58 / 176 >

この作品をシェア

pagetop