『私』だけを見て欲しい
「お前だっていろいろ大変だろ…?」

マネージャーに言われて目線を上げる。
優しい眼差しとぶつかって、一瞬、ドキン!と胸が鳴った。

「女1人で子供を抱えて生きるって、容易いことじゃないだろ…?」

『バツイチで子持ち』…その実情を、マネージャーはきちんと理解してた。

言葉に詰まる。単純に「そうですね」とは、答えられなかった。

「…そ…そう…ですよね…多分……」

迷いながら呟く。
ハッキリ断言しにくい。
家事も育児も、私は全て母に任せきりだから……。

「自信のない答え方だな…」

マネージャーの言うことは、いちいち当たってる。
見てるだけじゃない。なんでも知ってるみたいに言う…。

「ありませんよ…自信なんて…」

情けなくなって、つい本音を漏らした。
いつもは人前で口走ったりしないのに、マネージャーには言い易かった。

「これまで私は…全てを母に任せてきたから。…育児も家事も何もかも…母がいなければ出来なかったから。…自信なんて…つく筈ないんです…」

ひたすら仕事をしてただけ。
脇目も振らず、前を見てただけ。

「…情けない限りなんです…実際は…」

自分のことを卑下するのは得意。
誰も私のことを、褒めてはくれないから。

「そうなのか?俺にはそんなふうに見えないけど…」

精一杯の虚勢を張ってるから…と言おうとした。
でも、山崎マネージャーは違う意味の言葉を言った。
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