『私』だけを見て欲しい
『ーーーどんなお前も好きだぞ』

マネージャーがどんなつもりで言ったのか、知りもしないのに怖くなった。
どういう意味か聞いてもないのに…本気だと思ってしまった。

甘い香りに包まれた自分が、12年前のように幼く思えた。
あの頃は生まれたばかりの泰の世話が精一杯で、元夫のことも顧みる余裕がなかった。

…必死で親をやってた。
それは今も変わらない。
自分が生んだ命の責任を、ただひたすら、働くことでこなしてるだけ。
育てる事も食べさせることも、全部母がしてくれたから出来てるだけ。

(自信なんか生まれない…泰のことも何もかも…私は放りっぱなしだから…)

目の前にあること全てが、そんなふうに思えた。
だから、せめてディスプレイコーナーだけは、やりっ放しにしたくないと思った。

小さな世界を作り上げる。
そうする事で、自分が救われる。自信がなくても生きていける。

…きっと、そんな考えがあったからーーーー


並べた商品を眺めながら、今夜も残業だな…と思う。
自分に突き付けられる現実を思い知る時、いつもそれをしてごまかす。
寄せ植えをしてた頃と同じ。
私はまだまだ子供……




大きな浮き輪を膨らませながら、ふぅ…と息を吐いた。
オレンジ色のビーチボールに映える水色のハイビスカス柄。
モンステラのシルクグリーンを脇に飾り、パラソルを広げてみる。
浜辺の一景色。
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