『私』だけを見て欲しい
(とんでもない部下だと思ってるよね…きっと…)

紗世ちゃんのことなんか言えない。
私もマネージャーには、迷惑と心配ばかりかけてる。

(…明日…謝ろう…)

そう決めて立ち上がった。
床に敷いてた段ボールを片付けて、階段の方へ向かう。

…下りてくる気配もない。
私が知らないうちに、きっと帰ったんだ…。

(ディスプレイ変えたの、気づいてくれるよね…)

何と言われるかが気になる。
いつものようにさり気なく褒めてもらいたい。
それだけで…自信がつくから…。


トン、トン…と階段を下り始める。
5階のフロアに電気がついてる。
玩具売り場の社員達が、まだ残ってるみたいだ。

「お疲れ様ー、お先に上がりまーす」

誰がいるのか知らないけど声をかけた。

…返事がない。どうして?

(…誰もいないの⁉︎ )

フロアに入る。
人の影すら見えない。

(…どういうこと⁉︎ )

不思議に思って首を傾げる。そんな私の後ろから声が聞こえた。

「…帰るのか?」

ギクッ!として振り向く。
すぐ近くに顔がある。
ギョッとして後ずさる。
引きつりそうになる頬を、なんとか動かさないようにした。

「ディ…ディスプレイが…出来上がったので…」

思わず距離を取ってしまった。
声をかけてきたその人が、空いた間を眺める。

(しまった…わざとらしかったかも……)


「…夏物飾ってたのか⁉︎ …えらく早いな」
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