『私』だけを見て欲しい
頭を下げて、その先どうしようかと迷う。
何も考えずに確かめにきて、それから一体どうすればいい……?


目線を下げたまま、ディスプレイを眺めた。
白い砂浜を表現した小石と貝殻の間に、赤いカニがいる…。

(…えっ?これ…マネージャーが置いたの…⁉︎ )


驚いて駆け寄る。
カニの正体はキッチンタイマー。フロアに置いてある商品だ。


「可愛い…」

思わず拾い上げた。
こんなアクセント、自分には思い浮かばなかった。

「可愛い…ステキ…!」

細かい演出。思いもつかない。

「キッチンタイマーを置くなんて、私、気づきもしなかっ…」

両手で持って振り向いた途端、抱きつかれた。
ドキッ!として固まる。


(私…マネージャーの…腕の中にいる……⁉︎ )


「…可愛いのはお前だ!バカ!」

ぎゅっと腕に力が込もる。
カニを持ってる手が震える。
驚いて怖くて、息が…できない…。

コトン…とカニが手から零れ落ちた。
それに気づいて、腕の力が弱まる。
それでも身動き一つできなくて、腕の中でじっとしてた。

「…無防備になるな!止められないだろ!」

体が離れる。
逃げてく体温に戸惑う。
こんなに近くで男性を感じる。
しかもハッキリ、そして温かくーーー

「俺がお前のこと好きだって言ったの忘れたのか⁉︎ 襲われても知らないぞ!」

優しい顔でこっちを見る。
本来なら拒否するハズなのに、この人には…逆だった……

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