『私』だけを見て欲しい
決意に似た言葉。
この人の中に流れる雰囲気が、自分のと似てる。

そんな気持ちになるのは何故…?
この人には、どんな過去があるの…?


握られた手の温もりが確かなうちに、いろいろ話したいと思った。
でも、ここはオフィスで、そのうち電気も消える…。

(このまま…一緒にいたいのに…)

何もかも放って、2人だけの時間を過ごしたい。
気になることはあっても、知らん顔したい。
自分一人の時間。
今が、その時なのに……


…ポケットの中にあるケータイのベルが鳴った。
終わりを告げる夢の時間。
握られた手を離して、番号を確かめた。

(泰…?)

珍しい。
反抗期の息子から電話なんて、この最近なかったこと。


「はい…?どうしたの…?」

母としての声。
電話口から聞こえる泣き声。
…イヤな予感がする。


「泰…?どうしたの…?」
「お母さん…バアちゃんが……!」

泣きじゃくる子供の声がつまった。
電話を持つ手が震える。
両手で握っても、その震えが治らない。

「どうしたの⁉︎ おばあちゃんに何かあったの⁉︎ 」

グスグス…と泣く子に変わって、救急隊員を名乗る男性が出た。

「一過性の脳貧血かと思われますが、意識の混濁が見られます。これから市立病院に救急搬送しますので、お母さんもそちらに向かわれて下さい」

言われる言葉にフラつく。
側にいる人が私を支えて、なんとか立っていられた。
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