バゲット慕情
華はポットを置いた。
「子どものころ、祖父と約束したんです。
わたしも祖父と同じ仕事をするんだって。
祖父は、造船所で船舶の設計をしていました」
ああ、と美智子はあいづちを打った。
たぶん、その話も以前に聞いたことがある。
「おじいさん、喜んでらっしゃるでしょ」
きっとあの世で、と華はうなずいた。
そうだった。
美智子は思い出した。
華が一年生だった年の晩秋から初冬に、彼女はしばらく実家に帰っていた。
祖父が亡くなりました、と告げる電話口の声は凍えていた。
「バゲットは、祖父が好きだったんです」