いつかウェディングベル

流石に深夜ともなると家の中はひっそりしていた。

玄関を入るとドアを閉める音が廊下に響くと思わず辺りを見回した。


「ただいま」


いつもの癖でつい言葉に出てしまう。

すると、誰もいないと思っていた廊下の暗闇の中から加奈子が出て来た。


「おかえり。お仕事お疲れさま。」


加奈子の笑顔でのお出迎えがあれば今日一日の疲れも取れると言うものだ。

会社の問題も無事解決しそうな上に、愛妻のお出迎えとなると俺は嬉しくなり加奈子を抱きしめてしまった。



「仕事上手くいかなかったの?」


「その逆。無事終了。」



俺の言葉に安心したのか加奈子が背中をポンポンと優しく叩いてくれた。

それだけで今日の疲れは吹き飛んだ。

考えてみれば今日の昼までは加奈子と新婚旅行の最中で、甘い時間をたっぷり過ごしていたのだった。

ついさっきまでの会社での出来事に甘い時間を過ごしていたことすら忘れかけていた。



「よし、新婚旅行のやり直しをしよう。」


「透にそんな時間あるの? それに今日の緊急事態だって心配じゃないの?」


「それは心配いらないよ。加奈子が気にすることじゃない。」



加奈子が今気にすることは、中途半端に終わった俺達の新婚旅行をどうすればいいのかだ。



「今度こそ、こっそりと二人で出かけよう。」


「芳樹は?」


「お袋に任せよう。芳樹もすっかりお袋達に懐いているし、お袋も芳樹と過ごす時間は楽しそうだ。」


「でも・・・・仕事はどうするの?」


「今だから休めるんだよ。明日、取りあえずの荷物があればいい、朝から出発するぞ。」



新婚旅行の仕切り直しに親父には文句は言わせない。

今日は旅行を中断して会社に戻ったんだ。その分はしっかりと楽しませてもらうよ。

だから、今度こそは親父に俺の留守を任せる。

そして、携帯電話の電源は切っておく。

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