いつかウェディングベル
「彼女は今は席を外しています。」
「そのようだね。どれくらいで戻る?」
吉富は俺の質問には答えることをせず俺に背を向けていた。
それは、俺には教えられないと挑戦状でも叩き付けているかのような態度だ。
しかし、結果はもう出ているのだ。
加奈子は俺のものだ。俺達の結婚を知らなくても会議室での出来事が全てを物語っているだろう。
周りの好奇心旺盛な社員を捕まえて同じ質問をしようと思っていると、それに気づいた蟹江が素晴らしい判断で他の女性社員らを持ち場へと戻してしまった。
ならば蟹江から直接聞けばいい。
「ところで、彼女は今どこにいる?」
「彼女とは?」
「加奈子だ。田中加奈子に用があって来たんだ。」
俺の加奈子呼ばわりは周りをギョッとさせた。専務の俺が一社員を下の名前で呼び捨てにしたのだから。
だけど、今更そんなものはどうでもいい。俺達の関係を知られてしまったのだから。
結婚まではバレていなくてもキスシーンは目撃され恋人同士と思われている。
すると、そこへ、同僚の坂田と一緒にお喋りをしながら加奈子が販促課へと戻って来た。
つい先ほどまでは吉富へのライバル心と蟹江の冷たい態度に怒りが込み上げていたが、加奈子の顔を見るとウェディング部門の企画書が頭に浮かび上がり俺の怒りも更に増していった。
「田中、専務が先ほどからお待ちだぞ。」
吉富が厭味を言うかのような口ぶりで加奈子に俺が来ていることを伝えると、周囲の社員達の視線を一気に浴び俺達の一挙手一投足を監視されているような気分にさせられた。
企画したネット販売は順調で俺が販促課へ足を運ぶ必要のない今では、販促課の連中は俺が顔を出すだけでかなり神経質になっているようだ。
それは加奈子も例外ではなく、俺が何か良くないことを持ち込んだと言わんばかりの顔をされると、流石に加奈子相手でも俺は容赦しない。