いつかウェディングベル

江崎はしばらくパソコン画面を見ていた。椅子に深々と座りマウスを持ったりキーボードに触れたりするも全く作業はしていなかった。


そして、椅子を引き足を組んだかと思うと腕を組み何やら唸っている様子に岩下はまたもや江崎の様子を伺っていた。


そんな二人の様子を坂田も見ていたが何が起きているのか今一つ分かっていない様子。


販促課課長と商品管理部門の部長の二人は専務が絡むことだけに素知らぬ顔をして自分のデスクと向き合っていた。



「ちょっと出てくる。」



何を思ったのか、江崎はパソコンの電源ボタンを押すと椅子から立ち上がり脱いでいた上着を羽織った。



「江崎さん、困りますよ。吉富さんも蟹江さんもいないんですよ。俺と坂田だけじゃ何かあった時困ります。」


「今はそんな重大事になるような事は何もないよ。それに、会社から出るんじゃないから直ぐに戻ってくるよ。」



岩下にそう言うと江崎はそのフロアから出て行ってしまった。


エレベーターの前まで行くと腕を組んで扉が開くのを待っていた。


そんな江崎のところへ吉富が現れた。



「どこへ行くんだ?」



吉富の声が少し震えている様にも感じた江崎だが、吉富を相手に喧嘩をするつもりのない江崎は「少し出ます」とだけ言って開いたエレベーターの中へと入って行った。


吉富はそんな江崎を追うことはせず、そのエレベーターがどこへ向かうのかを見ていた。


エレベーターはどんどん上の階へと上がって行き専務の部屋のあるフロアで停まった。


吉富は嫌な予感はしたものの深入りするのを嫌ったのか自分のデスクへと戻って行った。


吉富が戻っても部長も課長も相変わらず知らん顔をし、何もなかったように振る舞っていた。


坂田は先輩社員の苛立ちに関わらないようにと仕事に集中していた。


岩下は何気なく吉富の様子を見ていたが、吉富に気付かれない様に直ぐに視線を自分のパソコン画面へと移した。


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