その夜、ギターは、ひそやかに泣く


ギターを黒い革張りのケースに、そっと横たえた。


すずは、ギターのネックを左手で支えた。ぴかぴかの「Martin & Co」の刻印を、右手の指でなぞる。



「あなたは、あたしのマーティンO―18。」



突然、車の音が聞こえてきた。


と思ったら、ぐーんと近付いてきた。


ヘッドライトが、すずの部屋のカーテンを照らして停まった。



午前二時。


ママが帰ってきたのだ。



「やばいっ。」



すずのひざが、ギターケースをけった。


ケースのふたが、ぐらりと揺れる。



はさまれる!


すずは、とっさに両手を引っ込めた。


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