カフェには黒豹と王子様がいます
 コーヒーの講習の時、目からうろこが落ちた話を聞いた事。

 接客の講習会で実技指導があって、そこでほめられたこと。

 そんな話を徳永先輩の腕の中で時々くすっと笑いながら、ぼんやりと聞く。

 一生懸命話をする徳永先輩が、急に話すのをやめた。

 私は徳永先輩の腕の中から起き上がって、徳永先輩の顔を見た。

 徳永先輩は、私をじっと見つめ、顔を近づけた。

 私は抵抗しなかった。

 でも、唇が触れあう直前で、顔をそむける。

 どうして?

 そっと徳永先輩の顔を覗き込んだ。

 笑っていない。

 どうしてそんなに悲しそうな顔をするの?

 私は徳永先輩の頬を撫でた。

 徳永先輩は私の手を握り、辛そうに下を向いた。

「西口、ごめん。僕は卑怯だ」

 徳永先輩は、パッと顔をあげた。

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