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「これはあの子の為に貯めたからあの子が使ってほしいの。留学をする、しないは別として美咲の手元に持っててほしい」
「そう、美咲さんに伝えときます」
スッと手渡された通帳。
受け取った俺に対して、お母さんは少し戸惑い気味に口を開いた。
「正直、通帳って言われた時、少し迷ったわ。美咲と一緒に居る事も驚いた」
「ですよね。…すみません、ほんとに。見ず知らずの男が来て突然そんな事言うのも無理ないですよね」
「…でも、芹沢さんと話して、なんだか安心出来るって思ったの。美咲の事、よろしくお願いします」
「はい」
「あ、そうだ。それとは別に美咲にお金渡してもらってもいいかな?えっと――…」
「いや、お金はいいです。俺が出すんで大丈夫です」
そう言いながら手を引き出しに伸ばすお母さんの言葉を俺は遮る。
「でも、」
「ほんと大丈夫ですから」
「ごめんなさいね」
その言葉を聞いて病室を出た後、俺は手に持っていた通帳をペラペラと捲った。
何ページも文字が刻まれてるこの通帳には、親心が物凄くこもってた。
数千円もあれば数万円。
ずっと母親一つで頑張って来た証がここに詰まっている。
こんなに頑張ってる美咲のお母さんを見ると、俺のお袋を思い出してしまう。
最低最悪だったあの頃の俺はどんだけお袋を苦しめていたんだろうと…
マンションに戻る前に適当に夕食を買った。
何か作ってやりたいけど、たいして作れない俺は買う事しか出来ず、それを持って帰宅する。
先に寝室のクローゼットの中にある引き出しに美咲の通帳を入れ、俺はリビングへと向かった。
リビングから密かに聞こえるテレビの音。
ソファーに寝転んでいる美咲の前にしゃがみ込み、そっと頭を触れた。
その所為で美咲が閉じていた目をゆっくり開けていく。