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「ねぇ、楓さん?」
覗き込むように聞いて来るアキに俺は視線を上げる。
「俺に聞くな」
「は?なんでっすか?」
「今、全うに生きてっから過去の話しは一切聞くな」
「あーあ、女多き男は大変っすねー…羨ましいわ」
「全うねぇ…」
不貞腐れたように呟くアキと密かに笑って呟く流星の声。
そう。過去は何も振り返りたくない。
振り返った所でなんもいい事なんかねぇんだから。
だからと言って羨ましがられるような生き方などしてなくて、何ひとついい事もない。
俺に対してほとんどの奴がその言葉を言うけれど、決していい男でもなんでもない。
一旦静まった空気の中、鳴り響く着信音の音で2人の視線が俺に向かう。
ポケットからスマホを取り出し、「え、諒也?」思わず呟いた言葉にいったん離れた流星の視線が俺に向いた。
「はい」
「あー…翔さん?」
「うん?」
「タバコいつ持ってきてくれるんすか?」
「え、タバコ?」
意味の分からない会話に俺は声を上げる。
だけどそれに反応したのは流星で、隣から「あ、忘れてた」なんて言葉が聞こえる。
「ちょ、貸して」
すぐさま流星は俺のスマホを奪い自分の耳に当てた。
「あ、諒也悪い。俺、言うの忘れてたわ」
なんの話の内容か全く分からず、俺は短くなったタバコはすり潰し水を口に含む。
笑いながら話し込む流星に「ちょー、流星さん俺にもかわって」アキが手を伸ばす。
その声に視線を向けた流星は「アキとかるわ」なんて言いだして俺のスマホをアキに手渡した。