Domain

玄関を開けると暗闇が広がる。

美咲の靴がないと居ないんだとわかる。

最近はお母さんと共にすることが多く、ここへはあまり来ない。

俺にとってもそのほうがいいと分かっていても、なぜか寂しくなる時がある。


そしてまたゴホゴホ出てくる乾いた咳。


「…風邪かな」


風邪じゃないと思っていたけど、ここまでくるともう風邪と思うしかない。

そう思いながら俺は風呂に入って、速攻眠りについた。


眠る時間なんて、ほんと数時間。

けたたましくなるアラームで仕方なく起きる。


…6時30分。


眠気を覚まそうとシャワーを浴び、俺は作業着に着替えた。

いつもより身体が怠い。

眠気を吹き飛ばそうと、自販機でブラック珈琲を買い喉に流し込み、俺は迎えの蓮斗を待った。


暫くして蓮斗の車が目の前に停まる。


「…はよ」


そう言って俺は助手席に座った。


「おはよーさん」

「今日ってお前、何時まで居んの?」

「えー…17時には帰りてーんだけどな。帰れっかな?別件で依頼きてっからそっちも顔だしてーし」

「あぁ、なるほどな」

「え、なに?お前、早く帰んの?」


運転席からチラッと俺のほうに顔を向ける蓮斗。


「あ、いや、、コホン、コホン、」


言いかけで、またむせ返ってきた咳。

手に持っていた珈琲を口に含んだ。


「ってか何お前。最近、咳多くね?」

「そんなしてっか?流星にも言われた」

「そんだけしてっと言うだろ。風邪かよ」

「かもしれん」

「うつすなよ。病院行ってこいや」

「流星にも言われた」

「そりゃ言うわ」


呆れたように言葉を吐き出す蓮斗に、俺はため息を吐き出した。

正直、風邪かなんなのかはよくわからない。

喉も痛くなければ、熱もない。

ただ、身体が疲れてるだけ。


そんな調子が更に一週間続いた時だった。
< 457 / 587 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop