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過ぎる時間

夜の仕事が始まる数時間前。

昼の仕事が早く終わった15時。

なんとなく。

そう思い、スマホの画面に美咲の番号を出し俺は電話を掛けた。


「…はい」


暫くして美咲の声が電話越しから聞こえ、それに混じってザワザワする雑音。


「みぃちゃん?」

「うん?」

「今、どこ?」

「学校行ってて、今帰り。駅のホームに居る」

「あー、電車か」


どうりでザワザワした雑音が聞こえるハズで、多少聞き取りにくい。


「どうしたの?」

「時間あっから会おうかなって思った」


会いたい。

ただそれだけ。

蒼真さんと会話をしてから、何故かやけに会いたくなった。


「あー… 、バイトなんだよね」


あっさりと返された美咲の言葉。

その申し訳ない声が耳に伝わる。


「まーた、バイトかよ」


俺よりバイトかよ。

と、思うと苦笑いが漏れる。


「ごめんね。今度、いつ空いてる?」

「みぃちゃんに会えるんだったら、いつでも空いてる」

「もう、そんなわけないでしょ」

「は?どう言う意味?」

「ううん、なんでもない」


クスクス笑う美咲はきっと俺の事を心配しているに違いない。

どーせ、美咲の事だから、仕事の邪魔はしないようにって、思ってるのだろう。


「まぁ、頑張って。また連絡する」

「うん。じゃあね」


電話を切った後、一息を吐く。

ほんとコイツは数週間会わなくても平気だよな。

あいつにとって俺はなんなのだろうか。と思う時がある。


テーブルに置いてあるタバコを咥え、ソファーに深く背をつけたとき、不意に鳴り出したスマホに視線を向ける。

タバコを咥えたままスマホを掴み、その画面に現れた名前に一息ついた。

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