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哀愁

―――…

美咲が旅立って1ヶ月が過ぎた。


美咲と出会う前に戻ったかの様に俺は必死で毎日仕事に明け暮れていた。

時たま美咲を思い浮かべる事があっても、毎日思い出そうとはしなかった。

思えば思うほど、逢いたくなる。


だから、敢えて思い出さないようにしていた。


いつもと変わらない毎日がただ過ぎていく。

何もない毎日が美咲と出会う前に戻ったかのように刺激のない毎日だった。


時刻は15時を過ぎたところ。

不意に鳴り出したスマホをポケットから取り出し、画面を見つめた。


――…諒也。


「はい」

「あ、翔さん?いまどこ?」

「仕事中。どした?」

「葵から電話があった。美咲のお母さんが倒れて病院に運ばれた」

「…え?」

「葵が美咲んちに行ったら救急車が停まってたらしくて、それに乗って葵も病院について行ったみたい。俺も今から向かう」


諒也から病院名を聞き出した所は実香子が居る総合病院だった。

仕事を途中で終わらせ、俺は急いで帰宅する。


シャワーを浴び、夜の仕事に間に合うかどうかも分からないため、スーツに着替えた俺は急いで病院に向かった。

病院のエントランス前で既に諒也が待っていて、「容態は?」そう言いながら病院の中へ入る。


「血液検査で腫瘍マーカーが引っかかったって」

「え?腫瘍マーカー?」

「あぁ」

「それって癌って事?」

「…多分。検査終わって今、葵が医師から説明聞いてて」


一瞬、俺の頭に美咲が浮かんだ。

笑顔で行った美咲の顔が。


慌ててその場所まで来ると、その前で葵ちゃんが目を赤くしてその頬を拭っていた。

病室の前で見上げると、そこは集中治療室の前で――…
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