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「葵ちゃん、なんて?先生はなんて言ってんの?」


涙を拭う葵ちゃんに俺は問いかけると、葵ちゃんはすすり泣くように声を出し始めた。


「…胃癌って。手術するって言ってた」

「ステージは?」

「ステージ1。2の手前。だから治る見込みはあるって。でも病院には定期的に来てほしいって。…美咲のお母さん、無理すると来ないからって」

「……」

「今日、倒れたのは疲労って言ってた。それでたまたま癌が見つかったって。早くに見つかって良かったって」

「いつ手術すんの?」

「明後日」

「美咲に…、美咲に…」


葵ちゃんが取り乱したように美咲の名前を口にする。


「翔さん、美咲に連絡――…」

「しねぇよ」

「…え?いや、でも美咲には連絡しねぇと」

「してどーすんの?アイツに、あいつに帰って来いって言うのかよ。言えねぇだろ、そんな事」


俺の瞳が潤んできたのは自分にでも分かった。

美咲にお母さんが倒れたから帰って来いって?

手術するから帰って来いって?

言えねぇだろ、そんな事。


「でも、あいつの母親だろ。言わねぇとアイツが怒るの決まってんだろ!」

「誰も言わなかったら分かんねぇだろうが」

「は?何言ってんの?翔さん、自分の言ってる事、分かってんのかよ」

「お前だって、分かんだろうよ。あいつが、あいつが自分の夢追っかけて留学して、まだ1ヶ月しか経ってねぇんだよ、」

「……」

「なのにお母さんが手術すっから帰って来いって?言えるわけねぇだろ、そんな事」

「……」

「そんな事言ったらアイツは絶対に帰って来る。折角行ったアイツを引き戻したとき、もうアイツはその夢すらを諦めるに決まってる。わかんだろ、お前にも」

「分かってるよ、そんな事。わかってっけど、でもっ、」


諒也の言いたい事は俺にも分かる。

俺にも分かる。

美咲に言わねぇとって思う。


俺のお袋が死んだとき、既に亡くなった後だった。

でも、美咲のお母さんは助かる。

だから美咲には悪いけど、楽しんでるアイツを引き戻すことはできない。
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