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「俺だって、俺だって。美咲に言わねぇとって思う」

「じゃ、言うべきなんじゃねぇの?」

「俺が後悔する」

「は?なんの?」

「美咲を引き戻した後、美咲の夢を壊した俺が後悔する」

「美咲も後悔すんだろ?アイツの母親だろ?アイツはずっと母親の事、大切にしてきた。母親の為に必死で今まで頑張ってきてんだよ!」

「んな事、お前に言われなくても分かってんだよ、じゃあアイツのずっと今まで秘めて来た留学はどーなんの?それをお前は壊せんのかよ!あいつが、あいつがどれほど――…」

「すみませんが、ここ病院なんで静かにしてもらえませんか?」


俺の声を遮った声に俺はゆっくりと息を吐き捨てた。


「すみません…」


小さく呟き、振り返ると、顔を顰めた実香子が俺たちを見ていた。


「…実香子」


俺の小さく呟く声に、諒也もその名前を聞きハッとする。

きっと名前を聞いて実香子の事を思い出したのだろう。

隣の葵ちゃんはもう何が何だか分からないくらいに、さっきよりも涙を流していた。


「ここ、病院なんで」

「悪い」

「新山美恵さんの担当をさせていただきます篠崎実香子です。よろしくお願いします」


丁寧に頭を下げた実香子はまるで初対面の様に俺を見つめた。

どうせ実香子は怒っているのだろう。

こんな病院内で声を荒げて怒っていた俺にみっともないって。


そんな実香子から視線を外し、俺は小さく息を吐き捨てた。


「明後日、手術をします。身内の人が居ないって聞きましたが緊急連絡先はどうしますか?」


実香子が淡々と口を開いていく。

さっきまでの苛々が未だに治まるわけでもなく、実香子を無視していると、


「翔くん。大事な事だから無視しないでよ」


実香子のため息が落ちて来た。
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