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――…

3月。

俺の最後のイベントが終わった。

ホスト業界に未練もなく夜から姿を消し、トビの仕事をしながら経営の勉強をし始めた。

以前からちょこちょこしていたものの、最近の夜はほとんど家で本を読み、そして色んな業界の人と顔を合わせる機会が多くなった。


ホストをしていた時と変わらず忙しい毎日が過ぎ、29歳を迎えた事を後になって気づくくらいだった。

初めて美咲から電話のない誕生日。

だけど、なんでだろうと、考える暇もなく忙しさに追われていた。


5月。

心地いい季節が巡り――…


「…翔くん。…いっぱい」


公園で香恋がバケツ一杯に砂を詰め込んで、俺の前まで来る。


「おーい、香恋。服めっちゃ汚れてんぞ。ママに怒られるぞ」


困った顔をしたかと思うと、香恋は俺に向かって笑みを浮かべた。


「だいじょうぶ」

「大丈夫じゃねぇって絶対」


香恋の服を叩いて砂を落としていると、


「翔くん、ブランコ乗る!押して!」


駆けつけて来た凌空(りく)が俺の手を思いっきり引っ張る。


「香恋、あれしたいっ、」

「え、あれって?」

「滑るの」

「え、滑り台?」

「うん!」

「僕が先」


グイグイ両腕を引っ張られて思わずため息が漏れてくる。

つか、何で俺がこんな事しなきゃいけねぇんだよ。

と、思いつつもかれこれ2時間は過ぎようとする。


「ねー、翔くん、愛優(あゆ)が靴脱いでる!」


遠くの方から瀬那が大きな声で叫んできた。


「はぁ?ちょっと、履かせて。おい、凌空!愛優みて。あぁ、もう萌でもいいから」


つかマジ無理。

取り出したスマホを操作し、その相手を呼び出す。

暫くして見えた二人に俺は安堵のため息を吐き出した。
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