敏腕社長に拾われました。

ホントにトイレへ行きたかったわけじゃないけれど、個室に入ると便座に座り込んで大きくため息をつく。

「逃げ出すんじゃなかった……」

ガクリと項垂れると、口から出てくるのは後悔の言葉。本物の詩織さんを目の前にして、怖気づいてしまった。

虎之助の隣に立つ姿は堂々としていて、私にはできないことに完敗状態。

あの場所で私を婚約者だと紹介できなかった虎之助の心情も分かるし、今日のところは流れに身を任せるしかない?

もう一度ため息をつくと、いつまでもここにいたって事態が変わるわけじゃないとゆっくり立ち上がる。おもむろに手を伸ばしドアを開け外にでると、手洗器カウンターの前に立つ女性と目が合った。

「あ……」

詩織さん。なんでこんなところに……。

優しい目で微笑んでいるけれど、その目は確実に私を捉えている。それはここに来た理由を、安易に語っていた。

あなたに話があるの──と。

「早瀬、智乃さんですね?」

綺麗な容姿の持ち主は、声まで透き通るように美しい。

「は、はい」

どこをどう頑張っても勝ち目のない私は、小さな声で頷いた。



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