敏腕社長に拾われました。
時間というのは厄介なもので、早く過ぎて欲しい時はなかなか進まないのに、今日みたいに終業時間なんて来なければいいのに……と思っている時に限って早く進んでしまう。
でも仕事に集中しているときは、ほとんど虎之助のことを思い出すことはなかった。なのに胡桃ちゃんが帰宅準備を始めると、私も落ち着かなくなってしまった。
「早瀬さん。今日は私も定時で上がるけど、あなたも今日は帰りなさいね」
「えぇ!? そうなんですか?」
「何? 私が定時で上がるのが、そんなに驚くようなこと?」
「い、いや、そんなことは……」
って驚くでしょ! 仕事の虫の宮口さんだよ? ここで働くようになってから一度だって定時に上がったことのない宮口さんが、胡桃ちゃんと一緒の時間に上がるって。
しかも、なんで今日?
出来れば時間いっぱい遅くまで残業しておこうと思っていたのに、タイミング悪すぎじゃない。でも宮口さんに言われた以上、ここでひとり残って残業するわけにもいかなし。
渋々デスクの上を片付けて帰る支度をしていると、ちょっと機嫌の良さそうな宮口さんが私のところにやって来た。
「社長は確か、直帰だったわよね。早く帰って、食事の支度でもして待っててあげたら?」
「はぁ……」
そういうこと。宮口さんは私に気を使って、残業なしになるように自分も定時で上がるってわけね。
これがいつもと変わらぬ日常だったら、とても有難いことだったけれど。今日はその気づかいも、ありがた迷惑と言うか余計なお世話と言うか……。