敏腕社長に拾われました。
「何? 社長が帰ってくるの嬉しくないの?」
「い、いえ、そんなこと。五日も会ってないんですよ、嬉しいに決まってるじゃないですか」
そんな心にもないことを言ってしまい、顔を見られないように下を向く。
宮口さんと目を合わせたら、今の私の心を読まれてしまう。そして何か声を掛けたれたら、きっと泣いてしまうから……。
デスクの引き出しに入っている貴重品とやらを乱雑に鞄に詰め込んでいると、終業を知らせる音楽が鳴り始めた。それを聞いて慌てて立ち上がると、ペコリと頭を下げる。
「じゃあ、お先に失礼します」
顔も見ずに失礼と分かりながらも、そのままクルッと背を向けてドアに向かい秘書室を出た。
感のいい宮口さんのこと。きっと私の不自然な行動を、おかしいと思ったに違いない。追いかけてきて問い詰められたら厄介だと、早足で会社を後にした。
駅に着くとコインロッカーから荷物を取り出し、虎之助のマンションとは反対方面へと向かう電車に飛び乗った。
これからどうするか……。とくに何のあてもなく、電車に乗ってしまった。
やっぱりここは、親友の澄子に頼るしかないか。彼と同棲を始めたばかりで、一度はお邪魔するのを躊躇したけれど。もうこうなったら、背に腹は変えられない。
そう意を決すると、『2~3日だけ泊めて。お願い!』と短いメールを澄子に送った。