敏腕社長に拾われました。

今日の空模様は曇り。今の私と虎之助の状態みたいに、なんとなくすっきりしない天気。

さっきから運転席の方からは虎之助から発せられているため息が、幾度となく繰り返されていた。

虎之助って気が強いというか俺様気質だと思っていたから、こんな時でも『いつまで機嫌悪いわけ?』とか強気な態度で来ると予測していたんだけど。ちょっと違ったみたいで、肩透かしと言うか予想外というか調子が狂う。

案外、小心者だったりする? これはこっちから歩み寄るべき?

窓の外を見ていた目線を正面に向けると、ちょっとわざとらしく小さくコホンと咳をひとつ。

「さっきは引っ叩いて、ごめんなさい」

いくら騙されたからと言ったって、頬を平手打ちなんてしちゃいけない。これに関しては謝らなきゃと思っていたから、それを素直に言葉で表した。

「あ、ああ、ホントだよ。智乃ったらさ、おもいっきり引っ叩くから驚いた。でも、そうさせたのは俺だってわかってるから。俺の方こそ、ごめんな」

しおらしく謝る態度に驚きながらも、虎之助がちゃんとした人で良かったとホッとする。

悪いことをしたら謝る。これって鉄則でしょ?

お互いに気持ちがスッキリしたのか、重苦しかった車内の空気が少しだけ軽くなった。


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