冷徹なカレは溺甘オオカミ
「あ」

「あ」



ドアの向こうの景色を見た瞬間、ついもれてしまった声。

そしてそれに被さるように、同じ反応を正面に立つ人物もしていた。



「おー印南、はよーす」



ひょっこりわたしの隣りから顔を出し、矢野さんは開いたドアの向こう側にいた人物──印南くんに軽い挨拶をしながら、フロアへと足を踏み出した。

ハッとして、わたしも同じくエレベーターを降りる。



「おはようございます、矢野さん。……あの、土曜日のチケットありが──」

「あー、礼ならもういいっていいって。さっき柴咲さんにも言われたし」



「ね?」と話を振られ、内心不意をつかれながらも無言でうなずいた。

印南くんはそんなわたしを一瞥して、再び矢野さんへと視線を戻す。



「そうですか」



……どうしよう。一緒にいた矢野さんが立ち止まってるのに、なんか、ひとりでは先に行きにくいな。

なんとなく手持ち無沙汰なわたしなんてそっちのけで、ふたりの会話は続いている。



「新しい彼女できたら、今度こそ俺リベンジするわ~。あのディナークルーズ、なかなかよかっただろ?」

「はい、とても」

「そーかそーか。柴咲さんもさっき、『楽しかった』って言ってたもんな!」

「、」



にか!と満面の笑みを浮かべてそう話した矢野さんのセリフに、つい肩を揺らした。

言葉にはしないまでも、口の形を「え、」と小さく開けた印南くんが、またわたしの方に視線を向ける。
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