冷徹なカレは溺甘オオカミ
月末から、月初にかけては忙しい。
月が変わったとたん、どの納入先もこぞって商品注文のオーダーを入れてくるからだ。
「あー印南、またおまえの担当のとこの追加オーダー来たぞ!」
「はい」
もう何度目とも知れないギリギリなタイミングのオーダーにも嫌な顔ひとつ見せず、かといって笑顔なわけでもない印南くんが、矢野さんからファックスを受け取る。
隣りの席の無表情男子・印南くんは、今日ももくもくと業務をこなしていた。
そして、わたしはというと……最近ちょっとだけ、彼のことを避けていたりする。
「柴咲さん」
不意に名前を呼ばれ、どきりと心臓がはねた。
見ると、右隣りの印南くんが、こちらに顔を向けていて。
「これ、落ちてましたよ」
そう言って彼が差し出したのは、わたしがいつも使っているボールペンだ。
「あ……りが、とう」
小さくお礼を言いつつ受け取り、目を合わせずまたすぐにデスクへと向かう。
少しの間、彼がこちらを見つめていたのは気配でわかったけれど……それでもわたしが気づかないフリをしていたら、印南くんは何事もなかったかのようにまた自分の仕事を再開した。
そのことがわかって、わたしはこっそり息をつく。