冷徹なカレは溺甘オオカミ
……『ずっとこうしたいと思ってた』って、あのとき彼は、たしかにそう言った。

あれは一体、どういうつもりで、こぼれ落ちた言葉だったんだろう。


単に、生理的な欲の捌け口として、触れたかったという意味だったのだろうか。

……そういえば最初に彼は、『考えてみれば柴咲さんは美人ですし、俺にとって悪い話ではないです』とか、言ってたしな。

つまり、自分で言うのもナンだけど……多少見目がいい女なら、誰でもよかったってこと?

もしそうなら、ひどい。ひどい男だ、印南 大智。


──……でも。



《柴咲さん。明日のお昼は、一緒に外にメシ行きましょうか》



長いキスの後、赤面して息も絶え絶えなわたしの髪を撫でながら、印南くんはそうささやいた。

思わず顔をあげたわたしに小さな笑みを浮かべた彼は「約束ですよ」と言い残し、そのまま会議室を出て行く。

そしてわたしはというと、たった今かけられた言葉を頭の中で反芻しながら、ただひたすら彼が消えたドアを見つめることしかできなくて。


あの突然のキスとランチのお誘いに込められた意味を、なんの邪推もなく素直に受け取ってもいいんだとしたら……あれって、期待しても、いいってこと?

……いや。だけど、わからない。印南くんの考えることは、本当にわからない。

でも、彼の言動をいい意味で捉えたいと思ってしまう女心も、たしかにあるわけで。
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