冷徹なカレは溺甘オオカミ
……印南くん、は。いくら毒舌っていっても、颯真とはまたタイプが違ったなあ。

いじることはあっても、わたしのことを貶すようなことは言わなかったし。……わたしが年上だから、手加減してくれてたんだろうか。


そこまで考えて、ハッとする。思考を振り払うように軽く頭を振ってから、ポーチの中のマスカラに手を伸ばした。


……いけない。もう印南くんのことは考えない、考えない。

わたしなんかじゃ手の届かない人だったって、わかったんだから。いつまでも、彼のことばかり考えてちゃだめだ。


ようやく出かける準備を済ませたわたしは、颯真と一緒に部屋を出た。

彼の小言をスルーしつつも並んで廊下を歩き、外階段を降りきった場所にある郵便受けの前を通り過ぎようとしたところで、ふと足を止める。



「なに? 郵便? そんなん帰ってきてからでいいだろー」

「あ、うん。そうなんだけど、」



なんとなく、銀色の郵便受けの隙間から目立つ赤い色が見えたような気がして。

どうしてか妙に気になったわたしは、自分の部屋番号のプレートがついているそれを開けてみた。



「……ッ、」



中を見て、思わず息を飲む。

すぐにまた郵便受けを閉めたわたしに、数メートル先で待っていた颯真が不思議そうな顔をする。



「柊華、どうかした?」

「……や、ううん」



首を横に振って、わたしはとっさに笑顔を浮かべた。



「なんでも、ない」



もう1度だけ郵便受けに視線を向けた後、足早にそこを離れる。

さっきまではなかった少しの不安を抱えながら、わたしは隣りの颯真には気づかれないように、小さく震える手を握りしめた。
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