冷徹なカレは溺甘オオカミ
失恋の痛手を忘れるためのやけ酒に付き合って、颯真がウチに泊まっていった翌日。

出かける間際に何気なく見た郵便受けに入っていたのは、真紅の花びらを持つ一輪のバラだった。


その出来事が初めてのことだったら、たぶんあの日も、単に驚いただけで済んだのかもしれない。

けれども実は、以前にも、同じことが続いた時期があって。

そのときは『もうこんなことはやめてください』といった旨のメモを郵便受けの中に置いておいたら、ぱたっとバラのプレゼントは止んだのだ。


あれももう、1年以上前の話。

それが、あの日を境に──どうしてかまた、同じことが繰り返されている。



「………」



リビングのテーブルの上には、水を入れたグラスに挿したバラ。

一見すると綺麗なだけのそれを見つめながら、わたしは少しのあせりを感じていた。


植物に罪はないし、と、もらったバラは捨てることもできずに、一応こうして飾ってはいるけれど──正直、名前も顔も知らない相手から一方的に花を贈られるというのは、多少気味が悪い部分もある。

グラスに生けてあるバラは、二輪。昨晩仕事から帰ってきたときに見つけたものと、数日前の休日の昼間、外出先から戻ったときに見つけたもの。

最初に見つけた日以来、数日おきに、それはわたしの部屋番号の郵便受けに入れてあって。

日によって見つける時間が違うから、差出人がいつ置きに来ているのかもわからない。年齢も、性別すらも不明だし、こんなことをする人の心当たりはまったくなかった。


まあとりあえず、今のところ害というほどのものはないし──もう少し、様子を見るべきかもしれない。

ひとまずそう結論づけ、わたしはお風呂に入るためにソファーから立ち上がった。
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