冷徹なカレは溺甘オオカミ
「お先に失礼します」



今日も無事1日の業務を終えたことに安堵しながら、そう言ってオフィスを出る。


思ってたより早めに上がれたし、今日はスーパーに寄って帰ろうかな。

今日も寒いし、夕飯は鍋にしよう。簡単だし野菜いっぱい摂れるから、冬は土鍋が大活躍なんだよなー。


ぼんやり考えつつ、エレベーターを待つ。

ほどなくして到着したそれに乗り込み、閉まっていくドアを眺めていると忙しない足音が聞こえてきたので、あわてて【開】ボタンを押した。

そうして乗り込んで来た人物を確認し、思わず顔がこわばる。



「すみません、柴咲さん」

「……イーエ……」



若干カタコトの返しになってしまったのは、致し方ないと思う。

だって自分以外誰も乗っていないエレベーターに駆け込んで来た人物の正体が、まさかの印南くんだったんだもん。

……走って来るなんて、めずらしい。いつもの彼なら、目の前でドアが閉まりそうになっててもたら~っと歩いてあっさり見送りそうなものだけど。



「……1階でいいわよね?」

「はい」



階数ボタンを指さして訊ねると、ネクタイを若干緩めながら彼はうなずいた。

……きっ、気まずい……他の人の目がないところで話すのなんて、あの日以来だし。

待て待て、速まるな、わたしの鼓動。この人は、ただの同僚。ただの後輩。

それだけの関係なんだから、いちいち、ドキドキしちゃいけない!
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