冷徹なカレは溺甘オオカミ
……え、なんで。

なに、なんで印南くん、わたしの手掴んでんの?



「すみません柴咲さん、ちょっと、お話したいことがあって」

「……な、に……」



ああ、今のわたしすごい。短くてもちゃんと返事ができたわたし、すごい。

あまりにも予想外の展開すぎて、彼の手を振り払うことすらできない。

こんな密室だと、ばくばくと激しく動く心臓の音が後ろの彼にも聞こえてしまいそうだ。ただひたすら視線は前に向けたまま、わたしは次の言葉を待った。



「……柴咲さんが今日デスクに飾ってた、バラのことなんですけど」



わたしの手首を掴む手は緩めずに、淡々と印南くんが話す。



「あれってもしかして……柴咲さんの家のポストに、入っていたものなんですか?」

「え……っ?」



思わず、振り返ってしまった。

じっとこちらを見つめる瞳とかち合ったから、わたしはその眼差しに怯んで、少しだけ視線を外す。



「な、なんで、それを」

「前に柴咲さん、言ってましたよね。マンションのポストに、差出人不明のバラが入ってたことがある、って」

「………」



──そうだ。そういえば以前、飲み会の後で彼とタクシーに乗ったときに……そんな話を、した気がする。



『よく『美人は得だよね』なんて言う人いるけど、嫌な思いすることも実は結構あるからね?! 同じクラスの男子が放課後こっそりわたしのリコーダー舐めてたとか、マンションのポストに差出人不明のバラが入ってたりとか!』

『それはドン引きですね』



……印南くん、あのときの会話、覚えてたんだ。

あんな、酔っ払いの戯言って流されても仕方ないような、わたしの言葉を。
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