冷徹なカレは溺甘オオカミ



印南くんが呼んでくれたタクシーでまず向かったのは、わたしのマンションだ。

自分の部屋のドアの前に立った瞬間、少しだけ不安になる。
だけど隣りにいる彼と目を合わせたら、それはすぐに落ち着いた。

申し訳なくも彼には玄関先で待っていてもらって、手早く荷物をまとめる。



「柴咲さん、それだけでいいんですか? ウチに何泊かできる分、持っといた方がいいと思いますけど」



トートバッグひとつを持って玄関に舞い戻ったわたしを見るなり、印南くんが至極真面目な顔でそう言った。

一瞬呆気に取られた後、わたしはあわてて反論する。



「な……っに、言ってるの! 1泊だって迷惑かけるのに、というかだいたい、きみには鈴音さんが」

「だからそれは……いやまあ、とりあえずその件は俺の家でゆっくり話します」



言葉を濁しながら、印南くんが先に玄関を出た。

どきどきしている胸をおさえて、わたしはこっそり息をつく。


もう……婚約者がいるくせに好き勝手言うんだから、印南くんは。

今までのことも全部そうだけど、いろいろと自覚が足りないんじゃないの?

まあ、そのやさしさに甘えてしまっているわたしが、とやかく言えることではないけれど……。


彼に見守られつつしっかり施錠をして、マンションを出る。

そしてわたしたちを乗せたタクシーは、いよいよ印南くんの家へと向かったのだった。
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