冷徹なカレは溺甘オオカミ
「おじゃま、します……」

「どうぞ」



まだ築年数もあまり経っていなさそうな、6階建てマンションの4階にある一室。

ドギマギしながら、彼の住まいである1DKに足を踏み入れた。

意外と言ったら失礼だけど、思ってたよりも生活感がある。

決して散らかっているというわけではなくて、リビングのテーブルに無造作に乗ったリモコンだとか、ソファーに置きっぱなしの本だとか、玄関にあったスニーカーだとか。

そういった些細なところに、印南くんが普段ここで生活していることを感じさせた。



「どうぞ、ソファーにでも座っててください。コートはこっちにかけておきますね」

「あ、ありがとう」



言われるがままファー付きの黒いコートを渡すと、彼はリビングの奥にある寝室らしきところに入っていく。

開いたドアから、一瞬ベッドが目に入ってしまって。不可抗力ながら急激に早鐘を打ち始めた心臓を意識しつつ、わたしはトートバッグを足下に置いてソファーへと腰をおろした。



……なんだか、夢みたい。

今わたし、印南くんの家にいるんだ。

そう思うと同時に鈴音さんのことが頭をよぎり、胸が痛む。



「……柴咲さん、大丈夫ですか?」



思いがけなくすぐそばから聞こえた声に、ハッとした。

うつむかせていた顔を上げると、未だスーツ姿の印南くんがわたしを覗き込むようにソファーの傍らに立っている。
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