冷徹なカレは溺甘オオカミ
メールの送り主、印南くんとの“業務命令”が成立したのは、今朝のことだ。

……時間が経って落ちついてくると、我ながらなんて無茶なことをしたんだと思う。

いくら寝不足と悩みすぎでテンションおかしくなってたからって、職場の後輩男子に「処女もらいやがれ」とか迫らないよね普通。

はあ、わたし、マジでなんてことを……。



『……いいですよ。その業務命令、承服しました』



──だけどあのとき、印南くんはそう言った。

そう言って、たしかに、わたしの無茶な“業務命令”を引き受けた。



「変わってる、よなあ……」



小さくつぶやいて、まじまじとメールを見つめる。

テンパってたわたしはともかく、あんな状況──二人きりの会議室で、先輩社員に壁に追いつめられるという状況──でも、いつも通りの無表情だった印南くん。

意図的にやってることならすごいし、そうじゃないならもっとすごい。

……どちらにしろ大物だわ、あの子。



『では、この件の詳細は後で俺の方からメールします。あ、それから、金曜日に柴咲さんからいただいたタクシー代ですが。あれは経費で落とすことができたので、あのとき受け取った五千円は柴咲さんのデスクの上に置いてあります。後で確認しておいてください』



最終的にそんな言葉を残して、彼は会議室を出て行った。

だからさっき、スマホにメールが来ているのを見て、ついドキッとしてしまったんだけど……。
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