冷徹なカレは溺甘オオカミ
「柴咲さん、デートしましょうか」
相変わらず抑揚のない声で紡がれた、突拍子もないその言葉。
我ながらおいしくできたと思う自信作、今日のお弁当のメインであるチキン南蛮が、つまんでいた箸をぽろりとすべり落ちた。
「……誰と、誰がデート?」
「俺と、柴咲さんが」
「……へー」
「なんですか柴咲さん、反応薄すぎじゃないですか」
「きみにだけは言われたくないよね」
すかさずそう言いながら、白米の上に転がっていたチキン南蛮を救出して今度こそ口に運ぶ。
印南くんの『明日から一緒にランチします宣言』から、約1週間。
彼が他の社員(主に矢野さん)に引っぱられる場合を除き、わたしたちはこうして、お昼休みを一緒に過ごしていた。
ちなみに食べる速度が遅いわたしと違って、印南くんは自宅近くのパン屋さんで買ったらしい明太バターフランスパンとクロックムッシュをずいぶん前に平らげている。
……なんだかなあ。印南くん、話し上手でもないわたしといて、飽きないのかな。
というか、いきなり『デートしましょうか』ってなに。つ、つい動揺して、チキン南蛮落としちゃったじゃない……。
「ここに、こんなものがあります」
もったいぶって言いながら、彼がすっとわたしのデスクに何かを差し出す。
紺色の、細長い紙切れが2枚。わたしは一旦箸を置き、その紙を両手で持ち上げてまじまじと見つめた。