冷徹なカレは溺甘オオカミ



「柴咲さん、デートしましょうか」



相変わらず抑揚のない声で紡がれた、突拍子もないその言葉。

我ながらおいしくできたと思う自信作、今日のお弁当のメインであるチキン南蛮が、つまんでいた箸をぽろりとすべり落ちた。



「……誰と、誰がデート?」

「俺と、柴咲さんが」

「……へー」

「なんですか柴咲さん、反応薄すぎじゃないですか」

「きみにだけは言われたくないよね」



すかさずそう言いながら、白米の上に転がっていたチキン南蛮を救出して今度こそ口に運ぶ。


印南くんの『明日から一緒にランチします宣言』から、約1週間。

彼が他の社員(主に矢野さん)に引っぱられる場合を除き、わたしたちはこうして、お昼休みを一緒に過ごしていた。

ちなみに食べる速度が遅いわたしと違って、印南くんは自宅近くのパン屋さんで買ったらしい明太バターフランスパンとクロックムッシュをずいぶん前に平らげている。


……なんだかなあ。印南くん、話し上手でもないわたしといて、飽きないのかな。

というか、いきなり『デートしましょうか』ってなに。つ、つい動揺して、チキン南蛮落としちゃったじゃない……。



「ここに、こんなものがあります」



もったいぶって言いながら、彼がすっとわたしのデスクに何かを差し出す。

紺色の、細長い紙切れが2枚。わたしは一旦箸を置き、その紙を両手で持ち上げてまじまじと見つめた。
< 91 / 262 >

この作品をシェア

pagetop