冷徹なカレは溺甘オオカミ
「……“ディナークルーズ”?」

「はい」



紙に書かれた文字を読み上げたわたしに、こくりとうなずいて見せた印南くん。

手の中にある紙から、隣りにいる彼へと視線を移す。



「どうしたの? これ」

「ひとつの別れを経験した傷心の男からの、悲しみと切なさと少しの嫉妬がこもったプレゼントです」

「……意味がわからないんだけど」



思わず不満げな顔をして頭に浮かんだ通りの言葉を口にすれば、彼は左手で頬杖をついてこちらを流し見た。



「そのディナークルーズチケット、もともとは矢野さんが自分の彼女の誕生日のために、3ヶ月も前から予約してたものなんです」

「……なぜそのチケットが、ここに」

「なぜ、と訊かれれば簡単には言葉にできない事情があるのですが……まあハッキリ言ってしまえば、つい1週間ほど前矢野さんが件の彼女に振られたため、誕生日サプライズの必要がなくなってしまったからですね」

「それは……言葉にできないわね」



引きつった顔を見せるわたしに、「でしょう?」なんてさらりと言う彼。

それから印南くんは、わたしの手から2枚のチケットを引き抜く。



「実は昨日、その矢野さんを慰める会という名目の飲み会があったんです。で、そこで矢野さんが、『印南は俺みたいになるなよ! このチケットはおまえにやるから、柴咲さんと楽しんでこい!』と、溢れんばかりのオトコ気を見せてくれまして」

「……なんか、その様子だと溢れてたのは涙みたいだけど」

「そこはツッコまないであげてください」
< 92 / 262 >

この作品をシェア

pagetop