ワケあり彼女に愛のキスを
「この前は見苦しいところを見せちゃってすみません」
そう謝ってくるという事は、今、舞衣が優悟のところにいるとは知らないようだった。
まぁ、当たり前かと思う。
舞衣は何も考えていないように見えるが、意外と優悟の立場だとかを考えているから。
いくら相手が秀一だとは言え、優悟の名前を出したりはしないのだろう。
「別に」
コーヒーを飲みながらそれだけ答えると、プルタブを開けた秀一がははっと軽く笑う。
「あんなの、北川さんの周りでは日常茶飯事ですか?」
「俺はあんな風に泣かせた事はない」
「お、さすが」などと笑う秀一に、優悟が視線を移す。
相変わらず規則からはみ出て茶色い髪が、余計に秀一を下品に見せているように思えた。
「ああいうタイプが好きなのか?」
決して秀一が好きなタイプに興味があったわけではない。
ただ、秀一がどの程度の気持ちで舞衣に接しているのかを探りたかっただけで。
優悟のそんな内心を知らない秀一は、笑いながら答える。
「ああ、まぁ、見た目は悪くないですかね。ただ、面倒くさいし重たいから、付き合うにはどうかなって感じですけど」
「……付き合ってるんじゃねーの? 合鍵がどうとか言ってたろ、あの時」
「いや、付き合いが長いんで妹みたいなもんですよ。
あっちはそう思ってないみたいでしつこいんですけどね」
悪びれもせず笑いながら答える秀一に、優悟が若干の苛立ちを感じながらコーヒーを口に運ぶ。
感じる苛立ちは、自分と秀一が同族だからか……それとも、舞衣が関係しているからなのか。
どうも舞衣と関わってから流されている自分に気付きつつも、優悟がいつもなら絶対にしないような言葉を口にする。