恋、物語り
それから少しして緊張が解けた。
なんだ、自分話せるんじゃん。なんて心で思ったりした。
紙コップに注がれた烏龍茶は暑さのせいですぐに飲み干してしまう。
「ちょっと、お手洗い行ってきますね」
そうシンさんに告げて席を立つ。
ナツキにも同じことを告げてトイレに向かった。
少しくたびれた海の家のトイレは少しだけ怖かった。
戻る途中で声をかけられた。
「立花さん?」と。
振り向くと、そこには中島くんの姿。
「…え…中島くん」
当たり前だけれど、海パン一枚。
鍛えられてる体を見て恥ずかしくなった。
「久しぶり。元気だった?」
「うん。あれ…?もしかして小林くんと来てるの?」
手に汗を握る。
ナツキも一緒だけれど、他の男の人と遊んでいることに罪悪感が漲った。
「コバ?来てないよ。俺は…」
そう言いかけた時、「アラター?」と女の人の声が聞こえた。
顔をあげると、そこには同じ高校の女の子。
「あ、俺は彼女と来てるから」
そう言って笑った。
彼女に向ける笑顔はとても優しかった。
右の口角は上がっていなかった。
愛おしそうに、彼女を見つめている。
……何とも言えない感情が押し寄せる。
「あ、そうなんだ。小林くん、友達と遊ぶって言ってたからてっきり中島くんかと思ってた」
色んな感情を悟られないように早口で話す。
そんな私を見て、彼女は「コバなら今日クラスで集まるって言ってたよ。ね?新。」
中島くんをアラタと呼ぶ彼女を少し羨ましく思った。
「あぁ、言ってたっけ?」
「だって、ほら。ユウコがコバと遊べるーって言って……あ…」
彼女は右手を口に持っていく。
やっちゃった。そんな顔をしていた。