恋、物語り



「お待たせ。…あ、久しぶり!」
また、最初に言うべきことを最後に言ってしまった。
ナツキに言われた言葉が蘇った。


「うん。久しぶり!
……じゃあ、行こうか」


彼の笑顔は安心する。
今まで感じなかった感情が溢れてくる。


「アヤ?」
「…え!?」
「どうしたの?」

ん?っと彼は私を見た。
その顔が笑顔だったから「何でもない」と、私も笑顔がこぼれた。



彼の地元。
彼が育った町。
たって二駅しか離れていないのに、全く分からない道。
彼に誘導されて道を歩く。


ふいに彼の手が私の手の隣にあることに気が付く。
緊張で手が震える。
手をブラブラさせたり、離す方法はいくでもあるのに、その場に留まったまま動けない。


「アヤ、手…繋いでいい?」

まだ午前中だというのに、夕日に染まったように私の顔は赤いだろう。

コクンと、頷くのが精一杯だった。


彼の大きな手が私の手を包む。
「ちっちゃい手だね」
そう言ってギュっと握った。

血が巡るのを感じる。
ドクドクと、流れる。
きっと彼にも伝わっているだろう。

けれどーー…
彼の笑顔が私に向けられたから、そんなものどうでもよく感じた。






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