誰よりも大切なひとだから。



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雨が降る朝だった。


どす黒い雲が、街を覆い尽くし、もう朝の8時だと言うのに不気味な程に薄暗い。


教室の電気をつけても、陰鬱な空気が室内に立ち込めていた。


「よぉ!近藤。元気か?」


雨が降ろうと槍が降ろうと、楽観的で無駄に明るい、東先生が教室に入ってきた。


「雨が降ってなきゃ、元気です」


私の本音に、先生は無関心そうに伸びをして、大あくびをした。


先生は寒さのため、ダッフルコートに身を包み、マフラーと手袋をしっかり着用済みだ。


この時間は職員室以外は暖房がつかない。


寒い寒いと東先生は手袋越しに手を擦り合わせる。


そんなに寒いなら、暖かい職員室にいればいいのに、わざわざこの寒い教室に来るのは、東先生が職員室嫌いだから。


いや、正確には嫌いな先生がいる空気が嫌いだから。


「近藤。今日は6時に学校来てんぞ」


先生は暇なとき、のっそりと教室にやってきては、どうでもいい話をして、帰っていく。


「ちなみに8時就寝の2時起床や」


ちなみに先生は相当な変わり者である。


またいつだって話すことは正論だから、他の先生方からの評価は面白いくらいにはっきりしている。


味方や友も多いけど、敵も同じくらいに多い。


校長や教頭さえも尻にひいているくらいだから、たぶんこの高校で1番力を持っている先生だろう。


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