ペットな彼女
ペットの悩み

私は智明(トモアキ)さんのペット。

ペットと言っても私は犬でも猫でもない、正真正銘人間の女の子。
智明さんが「美晴(ミハル)はオレのペットなんだよ。」って言うから、私は智明さんのペットになった。

でも、ペットにだって勿論悩みがある。
智明さんは私をいつだってペット扱いする。
私だって料理や掃除など家事は小さい頃からやっていたから人並み以上に出来る自信があるのに、智明さんがそれをみて直ぐに「しなくていい」って怒るの。
酷いでしょ?
確かに智明さんは板前さんで、私なんかじゃ真似できない料理の腕前を持ってるけど、
家ではゆっくり快適な生活を送って欲しいっていうペット心を分かってくれないの。

ずっとずっと大好きだった智明さんと一緒にいられることが嬉しくてついつい張り切って家事をやっちゃう私が火傷したり、指を切ったりするのが智明さんはとっても嫌みたい。

私は大学3年生。
ペットだけど、ちゃんと学校にも勿論行ってます。
今は大学で管理栄養士になる為の勉強中。
資格が取れたら実家に就職して、智明さんや他の板前さん達とメニューの開発を担当するのが私の夢だ。
料理の腕はまだまだだけど、メニューを考えるのはとても楽しい。お客さんが美味しく体に良い食事が出来るように。

智明さんは私の両親が営んでいる料理屋の板前さんで、私が小さい頃から修行していた。
うちの実家は割と有名な老舗料亭で、修行を希望する若者は多いのだ。

当時見習いだった18歳の智明さんを見て小学3年生(9歳)だった私は一目惚れをしてしまい、それから12年間もずっと智明さんを想ってきた。

そして、私の想いがとうとう実ったのが一年前。
高校生の頃から智明さんの家を出入り(料理長の娘という権限を振りかざし)していた私ですが、私の20歳の誕生日に智明さんとどうしても一緒に過ごしたくて、智明さんが仕事から帰ってくるのを待って、一緒に私の作った料理とケーキを食べてもらった。
初めて飲むお酒は智明さんと一緒じゃなきゃ嫌だった私は大満足だったんだけど、智明さんはその日新メニューの開発で忙しい時期だった事もあって予想以上に疲れていたのか、割と早い段階で眠そうにしていた。
疲れていたのに私の我儘に付き合ってくれる優しい智明さんの事が更に好きになった私だったのだが、ベッドまで支えて運んであげている時に気づいたら智明さんに押し倒され、あれよあれよという間に一線を超えてしまった私達。

私にとってはこの上なく幸せな誕生日だったんだけど、智明さんは曖昧にしか覚えてなかったみたいで「責任とってね?」と私が迫ったことから何故かペットというポジションに認定されてしまった。

智明さんは私のことをまだ小学生のままだと思っているみたい。
小学生と思ってる女の子を酔った勢いとはいえ押し倒すのもどうかと思うけど。

そして、この一年間は料理長の娘じゃなくてペットとして智明さんのそばにいる私。
でも、私はまだ智明さんに肝心な言葉を言ったことがない。
いくら体を重ねても心が通い合っていないと意味がないことを一年間で思い知ったのだが、だからと言っても「好き」の一言が簡単に言えるものではないのだ。

それには理由があって、私は小学生の頃一目惚れしてからというもの学校から帰るとすぐに厨房に行って夜の開店時間まで見習いが行う仕込みをする智明さんに駆け寄り側から離れずに今日学校で起こったことを逐一報告していた。
優しい智明さんはそれを無下に出来ずにいつも相槌をうってくれて、私はもっと智明さんが好きになっていった。(今考えるとかなり迷惑だったであろう。)

そんな昔から良くも悪くも積極的だった私は小学生の卒業式が終わって大人になった気分で智明さんに告白したのだ。「智明さんが好き!大好きなの!」と。
智明さんは笑顔で「ありがとう。俺も美晴ちゃんが大好きだよ。」と喜んでくれた。

つまり、全く女として見てもらえなかったのだ。
告白を告白と思ってもらえなかった。
私にとって一大決心した告白は笑顔で流されてた。
それが今でも私のなかでトラウマになっていて、どうしても「好き」が言えないのだ。

いくら私が21歳になっても、智明さんも歳をとる。
彼は30歳。
9歳の差は何年たっても縮まらない。





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