痛々しくて痛い
ちょっと目を見開いてから染谷さんは続けた。


「でもまぁ、それに関してはホント、それぞれ自由で良いよ。強要するような事でもないしな」

「そうですよね」


同意してから伊織さんは言葉を続けた。


「ところで、樹さんが遅れるなんて珍しいですよね。何かあったんですか?」


深く追求される事もなく話題が変わった事にホッとしつつ、条件反射で応接セットの真上にある壁掛け時計に視線を向けた。


確かに、始業時間を5分ほど過ぎている。


「出勤時間の打刻は大丈夫なんですか?」

「うん。総務で端末借りてログインしたから」

「あ、先にそっちに顔出してたんですね?」

「昨日俺、少し残業しただろ?帰り際、部長とエレベーターで一緒になってさ。渡したい書類があって、それについての説明もしたいから、明日仕事前に総務部まで来てくれって言われて。本来の用件はすぐに片付いたんだけど、世間話が長引いちまって」

「え?書類?」

「何か新たなお仕事ですか?」

「それについては朝のミーティングで話す。他にも重大ニュースがあるし。その前に、ちょっと一息つかせてくれや」


伊織さんと颯さんの質問は軽く流し、染谷さんはカウンターに接近すると、すでに用意されていた自分のカップを手前に引き寄せ、そこにコーヒーを注ぎ入れた。


カップを手に染谷さんがその場を離れたタイミングで、伊織さん、颯さん、麻宮君、私の順で後に続く。
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